データで実証!クラシック音楽団体の集客を変える「来場者の解像度」【teketセミナーレポート】

データで実証!クラシック音楽団体の集客を変える「来場者の解像度」【teketセミナーレポート】

クラシック音楽業界では、いま集客の前提が大きく変わりつつあります。エンタメ市場全体が成長を続ける一方で、クラシックの動員は緩やかな下落が続き、観客の時間はNetflixやYouTubeといったデジタルエンタメへと流れています。さらに現場では、職員の高齢化や業務の属人化が進み、「勘と経験」だけに頼った興行は曲がり角を迎えています。

こうしたなか2026年4月22日、電子チケットサービス「teket」とクラシック音楽情報誌「ぶらあぼ」は、共催で「プロ音楽団体のためのデータ利活用セミナー」を開催しました。副題は「『勘と経験』から『データと戦略』の興行へ」。会場には、オーケストラ、ホール、音楽事務所、音楽大学の関係者が集まり、teketに蓄積された券売データをどう活かすかを議論しました。

良い演奏をすれば、お客様は来てくれる。その手応えは確かなものです。ただ、大量にある券売データを読み解き、来場者が何を求め、どのタイミングで動くのかをデータで捉えたとき、集客の打ち手はどう変わるのでしょうか。本記事では、セミナーで共有された市況の分析、teketが保有するデータ、そして現場の実践例をレポートします。

第2回クラシックセミナー_会場写真

動員は減っている。それでも「勝機」はある

セミナーの冒頭で示されたのは、クラシック音楽市場の現在地でした。ぴあ総研「2025ライブ・エンタテイメント白書」によると、エンタメ市場全体の市場規模が年平均3.2%で伸びる一方、クラシック市場の伸びは2.0%にとどまります(いずれも2019年から2024年の6年平均)。動員数で見るとさらに差は開き、エンタメ市場全体が年平均5.8%減、クラシックは7.4%減と、減少幅はより大きくなっています。売上規模は伸びているのに、足を運ぶ人は減っている。これが第一の事実です。
図:エンタメ市場とクラシック市場の成長率・動員数の比較(出典:ぴあ総研「2025ライブ・エンタテイメント白書」)

図:エンタメ市場とクラシック市場の成長率・動員数の比較(出典:ぴあ総研「2025ライブ・エンタテイメント白書」)

理由は、観客の時間が足りないことではありません。厚生労働省の労働経済分析レポートでは、労働時間は長期的に減少しています。東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授は、増えた余白(可処分時間)が新たなエンタメや文化の創出につながると述べています。問題は、その「新たに生まれる時間」の争奪戦が、すでに始まっていることです。

マイボイスコムの「余暇の過ごし方に関するアンケート調査(第6回・2024年11月)」を見ると、余暇の過ごし方では動画配信サービスが約3割を占めています。一方で、観劇・美術鑑賞・コンサート・映画館は13.1%にとどまり、緩やかな減少傾向にあります。競合となるデジタルエンタメは、視聴履歴やデバイスのデータをもとに「その人が見たいもの」を高い精度で提示し、売れるコンテンツに資源を集中させています。クラシック音楽が同じやり方をとる必要はありません。ただ、観客の時間をめぐる競争が激しくなっているという現実は、押さえておきたい前提です。

それでも、クラシック音楽業界には勝機がある。セミナーではそう語られました。根拠として紹介されたのが、野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」(2024年8月)です。価格よりも「自分が気に入った価値あるもの」に対価を払うプレミアム消費の層は、2000年の13%から2024年の25%へと約2倍に増えています。逆に「安ければよい」という層は、40%から22%へと半減しました。画面越しのコンテンツが溢れる時代だからこそ、生身の体験や非日常の空間に惜しみなく時間とお金を使う「二極化」が起きている、というわけです。

 

図:消費スタイルの構成比の推移。プレミアム消費が13%→25%へ(出典:野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」2024年8月)

図:消費スタイルの構成比の推移。プレミアム消費が13%→25%へ(出典:野村総合研究所「生活者1万人アンケート調査」2024年8月)

つまり、「どこの団体でもいい、どこのホールでもいい」という観客は減り、「この団体でなければ」「この人たちでなければ」と感じてくれる、こだわりを持った層が確実に存在するということです。

さらに、現場の側にも変化を急ぐ理由があります。公営ホールでは職員の過半数を50歳以上が占め、業務の属人化を感じる組織は7割を超えるという調査もあります。ベテランの勘と経験に頼れるうちに、それをデータと戦略へと形式知化しておく。セミナーで示されたのは、その移行が「今がラストチャンス」だという危機感でした。

 

まず取り組むべきは、来場者の「解像度」を上げること

では、何から始めればよいのでしょうか。セミナーで最初の打ち手として挙げられたのは、「来場者の解像度をデータで上げる」ことでした。

その背景には、マーケティングでよく語られる「1対5の法則」があります。新規のお客様を一人獲得するには、既存のお客様にもう一度来てもらうのに比べて、約5倍のコストがかかるという考え方です。だからこそ、まずは手元にあるデータをもとに、すでに来てくれているお客様を深く理解することが、最も近道になります。来場頻度、嗜好、年代、行動データなど、teketには分析の手がかりが蓄積されています。

来場者は、決して一様ではありません。セミナーでは、HAKUHODO HUMANOMICS STUDIOのレポートをもとに、ファンを「主催者への熱度の高低」と「団体主体か個人主体か」の2つの軸で整理する見方が示されました。指揮者やコンサートマスターを応援する熱量の高い層、仲間との交流を楽しみに通う層、好きな曲をピンポイントで聴きに来る層など、来場者のなかには複数のクラスターが存在します。

 

図:クラシックファンの心理・行動のクラスター(出典:HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO「オシノミクスレポート」2024年より一部teket加筆)

図:クラシックファンの心理・行動のクラスター(出典:HAKUHODO HUMANOMICS STUDIO「オシノミクスレポート」2024年より一部teket加筆)

大切なのは、ある一つの公演が「どの層に、どんな価値を届けているのか」を、団体自身が言語化できているかどうかです。良いものを作れば届くという作り手起点の発想から、欲しい人に届ける来場者起点の発想へ。その転換の土台になるのが、来場者の解像度を上げるデータ活用です。

データが示す、リピーター育成の3つの要素

ここからは、teketが保有するデータの分析結果が紹介されました。分析の対象は、全国でクラシックのイベントを一定数開催する1,009団体(約103万人の購入者)と、首都圏のプロ音楽団体41団体です。

まず、リピート率(2回以上購入した人の割合)は、全体(1,009団体・全国)で23.1%、首都圏41団体では31.3%でした。裏を返せば、約4分の3のお客様は一度きりの来場にとどまっており、リピーター育成の伸びしろは大きいと言えます。

では、リピート率が高い団体には、どんな共通点があるのでしょうか。1,009団体の分析からは、リピート率が開催頻度や規模よりも「ファンとの関係性」に直結することがわかりました。相関が高かったのは、次の3つの要素です。

図:リピート率を高める3つの要素(コメント数 r=0.49/フォロワー数 r=0.45/初動7日間 r=0.34)(出典:teket)

図:リピート率を高める3つの要素(コメント数 r=0.49/フォロワー数 r=0.45/初動7日間 r=0.34)(出典:teket)

1つ目は、公演ページに寄せられるコメントの数です(相関係数r=0.49で最も高い指標)。購入時に「楽しみにしています」と書き込んだお客様に、団体が丁寧に返信します。そうしたやりとりは、ページを訪れた他のお客様の目にも触れ、グルメサイトや地図アプリの口コミのように「この公演は注目されている」という印象を生みます。フォロワー数が認知の「広さ」を示すのに対し、コメントはファンの「深さ」、つまり能動的な反応を映す指標だと説明されました。

2つ目は、団体のフォロワー数です(r=0.45)。teketはフォローしなくても購入できる仕組みですが、データを見ると、フォロワーが500人を超えたあたりから平均リピート率が25.1%へと跳ね上がります。認知の広さが、リピートの土台になるわけです。

 

図:フォロワー数別のリピート率。500人超で25.1%へ跳ね上がる(出典:teket)

図:フォロワー数別のリピート率。500人超で25.1%へ跳ね上がる(出典:teket)

3つ目は、発売後7日間、つまり「初動」の購入数です(r=0.34)。初動の7日間で購入が3件以下だった公演のリピート率は10.9%、101件以上だった公演は29.1%で、その差は2.7倍にのぼりました。初動が弱いとリピーターも育ちにくい傾向がはっきりと出ており、発売開始の告知をいかに届けるかが効いてきます。

 

図:初動7日間の購入数別リピート率。3件以下10.9%→101件以上29.1%(出典:teket)

図:初動7日間の購入数別リピート率。3件以下10.9%→101件以上29.1%(出典:teket)

もう一つ、入口づくりの打ち手として紹介されたのが「無料公演」です。関東のプロ音楽団体41団体で見ると、無料公演を実施したことがある団体のリピート率は20.5%で、実施したことがない団体(6.5%)の約3.2倍でした。無料公演で一度来場した方の約3割がその後ふたたび足を運び、平均4.5%(最も高い団体では12%)が有料公演のチケットを購入していました。無料の来場者もデータとして記録し、次の案内につなげる仕組みがあれば、入口は有料の来場へと育っていきます。直接の収益ではなく、来場の「習慣化」をねらう打ち手です。

 

 

図:無料公演「あり」と「なし」のリピート率比較。関東41団体では3.2倍(出典:teket)

図:無料公演「あり」と「なし」のリピート率比較。関東41団体では3.2倍(出典:teket)

購入のタイミングにも、はっきりとしたヒントがありました。最もリピート率が高かったのは、公演の8〜30日前に購入した層で、その値は43%にのぼります(販売開始から開演までの中央値は41日)。一方、販売直後に動くのは、もともと熱量の高いコア層だと推察されます。そこで推奨されたのが、8〜30日前の購入者へフォローメールを送り、当日購入した人には次回の早割情報を届けて早期購入を促すことでした。

 

図:購入タイミング別のリピート率。8〜30日前が43%で最高(出典:teket)

図:購入タイミング別のリピート率。8〜30日前が43%で最高(出典:teket)

セミナーでまとめとして示されたポイントは、次の3つです。コメントが生まれる投稿文化をつくること。発売開始時と、公演の30日前という2度の告知を徹底すること。そして、無料公演で入口をつくること。いずれも、teketのデータが裏づけた打ち手です。

 

現場はデータをどう活かしているか

セミナー後半のパネルディスカッションでは、実際にデータ活用に取り組む2つの団体の事例が共有されました。テーマは「ホール・団体が直面する『データ活用の壁』をどう壊すか」です。

 

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

1つ目は、神奈川フィルハーモニー管弦楽団です。同楽団は、コロナ禍で定期会員が3割減少するという課題を抱えていました(会員数は2019年の926人から、2021年には642人まで落ち込みました)。職員不足や業務の属人化も重なるなかで、広報を支援する担当者は、まずアンケートを通じてお客様の声、いわゆるVOC(Voice of Customer)を分析し、定期会員制度の課題を明確にしました。

そこから打ち出したのが、3つの具体策です。会員制度紹介ページの大幅なリニューアル、会員限定のファン感謝コンサートやチケットホルダーの再開、そしてグッズ販売を全公演へ拡大すること。ロビーでファン同士の交流が生まれるよう、来場者との接点を意識して設計しました。こうした取り組みの結果、定期会員数は2025年に1,152人まで回復し、広報支援の参画から約9ヶ月で会員を3割増やしています。

 

図:神奈川フィルハーモニー管弦楽団の定期会員数の推移。926人(2019)→642人(2021)→1,152人(2025)(出典:teket/同楽団)

図:神奈川フィルハーモニー管弦楽団の定期会員数の推移。926人(2019)→642人(2021)→1,152人(2025)(出典:teket/同楽団)

2つ目は、音楽事務所のプロアルテムジケです。チケット売上の最大化を課題に掲げる一方、少人数ゆえに担当者が企画から配券管理、紙チケットの発送、ツアー帯同、全国への営業までを兼務し、業務が属人化していました。同社はまず、teketの座席設定機能を使って委託先ごとの在庫を一元管理し、紙の原券管理を廃止しました。さらに、購買履歴にもとづくクーポンをセグメント配信し、Meta広告では「実際に購入した人」までをたどって、購入者に近い層へ配信を最適化しています。LPの改訂とMeta広告の活用によって、1日あたりの券売枚数は1.4枚から9.0枚、そして22.8枚へと伸びました。

 

プロアルテムジケ_ディスカッション

図:LP改訂とMeta広告による券売枚数の伸長。1.4枚/日→9.0枚/日→22.8枚/日(出典:teket/プロアルテムジケ)

図:LP改訂とMeta広告による券売枚数の伸長。1.4枚/日→9.0枚/日→22.8枚/日(出典:teket/プロアルテムジケ)

両者に共通していたのは、「データ活用の壁は、入口にある」という実感でした。社内で前例のない打ち手を進めるとき、まず自分が一番詳しくなり、短期で分かりやすい結果を出して示します。データ活用は結果が早く返ってくるからこそ、最初の一歩を踏み出した団体から変化が始まっています。

 

よくある不安への答え

セミナーの質疑応答では、現場が抱える率直な疑問にも答えが示されました。

「高齢のお客様は、電子チケットについてこられるのか」という問いに対しては、紙とWebの並行は今後も続く前提でよい、という考えが共有されました。チラシは依然として有力な情報源であり、無理にゼロにする必要はありません。一方で、電子チケットを購入して自宅で紙に印刷して来場する高齢の方も多く、キャッシュレス決済の延長として、想像以上に使いこなされているのが実態です。Webアンケートの回答者にステッカーを配るといったインセンティブが、移行のきっかけになります。

高額チケットの転売への懸念についても議論がありました。記名のない紙のチケットのほうが転売は起きやすい側面があり、電子チケットは法的な手続きを通じて取引をたどれるという利点があります。購入者名を券面に表示する機能の開発も進んでいます。

 

データ活用は、音楽の価値を「届ける」こと

「勘と経験」を否定する必要はありません。大切なのは、ベテランが培ってきたその知見を、頼れる人が現場にいるうちに「データと戦略」へと翻訳し、形式知として残しておくことです。電子化やデータ活用は、業務を効率化するためだけのものではありません。データを通じて来場者を理解し、また来たいと思ってもらう関係を育てていく。それが、素晴らしい音楽をより多くの人に届けることにつながります。

クラシック音楽団体が直面している課題は複雑ですが、最初の一歩は決して難しくありません。手元にある来場者データに目を向け、購入者のコメントに返信する、発売直後にきちんと告知する、無料公演で入口をつくる。今日からできる一つを試すことから、変化は始まります。

ぶらあぼとteketという、すでに実績のあるツールを使いながら、データにもとづいて来場者の解像度を上げていく。その一歩が、次のシーズンの集客を変える出発点になります。

 

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